新学習要綱で小学生から英語が評価を伴った教科として授業に取り入れられることが決まりました。私は、こうした愚民化政策に懸念を抱いているものの一人です。「グローバル社会」とか「国際化」と言った言葉は、私たちの耳にある種の心地よさと希望を予感させます。しかし、この言葉の実態を最もしっくりする日本語に当てはめると、それは「弱肉強食社会(世界)」という表現と同一です。まさに「世界のグローバル企業」が牽引している価値観と世界観です。世界企業から見ると日本の企業は、ガラパゴス的な存在です。新卒一括採用(令和元年に経団連が見直しを検討)で年齢制限・性差別・身分差別・国籍差別を続けていますから(リクルートを除く)。
グローバリズムを一言で説明するなら、年収が300万円の日本人と年収が50万円の中国人のどちらを雇うかは、経営者が自由に選べる、ということです。現にアメリカでは、あらゆる仕事がインドに安価でアウトソーシング(外部発注)されて、年収の高いアメリカ人の仕事を奪っています。経営者だけが儲かるシステムです。日本でもルノーの傘下にある日産の会長であったカルロス・ゴーンの年収が20億円以上で、その日産で働く非正規労働者の年収が200万円未満を考えれば、誰でもおかしいと感じるはずです。
15年以上前になりますが、斎藤兆史(さいとう よしふみ)氏(東京大学大学院教授=専門:英文学、英語教育等)は、「危機に瀕する日本語」と題して、「現在の日本人は、異常とも思える英語狂騒のなかで、わざわざ好んで母語による繊細な思考を放棄し、自分たちの脳を英語の論理の鋳型に押し込めようとしているように見える。このまま放っておくと、日本語が危機に陥っていることを感じ取るだけの母語能力すら失ってしまうのではないか。」と警鐘を鳴らしました。
そして、小学校で英語を導入しようという愚案に対して、「その貴重な世代に国を挙げて早期英語教育を施そうというのだから、日本語の未来は暗い。」と慨嘆していました。英語が文部科学省の利権の道具になっていることは言うまでもありません。これまでにも文科省が犯した大きな過ちは、法科大学院の設置・大学院の拡大と大学院生の大幅増員・スーパーグローバル大学構想(SGU選定)・国立大学文系改組・縮小・廃止通告等、枚挙に暇がありません。最近話題になった文科省からの大学への天下り問題は、上記の愚策に直接かかわった問題の官僚たちが主導していました。官僚にとって「天下り」は、官僚組織の動脈と同じでなくてはならないものです。無くなることはありません。
話は変わりますが、長いことメディアを賑わす言葉に「格差」と「貧困」があります。所得格差、教育格差等が人々の間に見えない壁を作り出し、様々な軋轢や相互誤解による人間関係の摩擦が至る所で生じています。経済不況が続く中、長期的展望を描くことが出来ず、ご子女の教育費が捻出できないご家庭も多々存在していると思われます。親御さんの教育軽視・教育無知が、将来の貧困層にご自分の愛息・愛娘が組み込まれる構図を理解できなくさせている要因なのかもしれません。実に相対貧困層の80%以上が何らかのスペシャリストや高級職人等を除いた低学歴(中卒、高校中退、一部の高卒等)の人々であるというデータが書籍等で明らかにされています。自分の意志で職業を選択できない状況に陥っています。情報不足のため、所謂ブラック企業に足を踏み込まざるを得ない生徒や学生も多々います。大卒でさえも希望の職業や職種に就ける人は少なく、厳しい就職難に晒されています。しかも就職できるできないは、景気状況に大きく左右されることに変わりはありません。現実の資本主義社会は、綺麗ごとだけで済ませることのできない厳しい競争社会であり、学歴社会でもあるのです(2017年正規採用率:大卒男子 55%、大卒女子 71%、大学中退 7%)。
定員割れをし続けている大学(平成28年度時点で大学の44.5%、短大は66.9%)に高額な入学金を納めた後に4年間も決して安くはない授業料を払い続け、何とか卒業したとしても、就職の入り口でほとんどの企業にシャットアウトされてしまう事実は、悲しい現実です。大卒なのに大卒扱いされないのでプライドをずたずたに傷つけられ、ニートや引き籠りになってしまう若者がたくさんいます。大学に入学する前に実社会の現実を教師を初め、家族を含めた周囲の人たちが教えてあげることが大切です。本人が実直で真面目な性格の持ち主ならなおさらです。就労条件の良くない会社に就職し、1,2年頑張って仕事に打ち込んでも、3年目には糸の切れた凧状態になり、鬱病を患ってしまいます。退職後は、非正規労働者の道しか残されていません。平成29年の時点での非正規労働者数は,凡そ2,500万人に達しています(公式発表数は、2050万人。実数よりも少なめになります)。その中、年収が200万円未満の人が約60%、300万円以上の人は極僅かです。所謂相対的貧困層に属し、年収が増えることは生涯ありません。使い捨てにされる不安と過酷な就労条件下で働く非正規労働者の現実(健康面では、生活習慣病[糖尿病や高血圧など]の罹患率が高く、寿命も短い)に背を向けた建前(職業に貴賎なし、公平・平等社会、実力第一かつコネなし社会等)だけの公教育にも重大な非があると思います。
これまで一般常識とされてきた大企業に就職できれば一生安泰という構図も崩れてきています。三洋電機やシャープや東芝といった技術者の憧れの企業も今やなくなったり、外資に買収されて見る影さえありません。一時期、日本企業なのに会議等で英語を社内公用語として使用するといった斬新なアイデアがメディアで話題になりました。皆さんもご存知のユニクロが有名ですが(新卒で入社した社員の5割が3年以内に退職するブラック企業としても有名ですが)、英語を社内公用語にする前に比較して、退職者の割合が非常に高くなっています。役職クラスの社員さえも大量に退職している事実は、あまり知られていません。前にも書きましたが、会議で発案する内容は、独創性に優れていないと意味がありません。つまり母語である日本語で徹底的に考え抜く作業が必要です。英語からは1ミリの独創も作れないのです。今後に向けて考えなければいけないことは、所謂、想像力と創造性を発揮できない暗記型の偏差値秀才の市場価値が暴落している現実に目を向けることではないでしょうか。
日本電産会長兼社長の永守重信氏は、読売新聞のインタビューで次のように語っています。「一時期、『灘高ー東大ーハーバード大学』に象徴される『きら星』のような人材を採った。残念ながら幻想だったね。創業以来6,000人を採用してきたが、学歴と仕事の成果に相関関係はない。だから教育だ。教育で人はガラッと変わる。(途中省略) 米国は20代で経営する。優秀な人ほど大企業には行かず、ベンチャー企業に行く。日本は一流大学出てもヒラから始めて主任、課長。・・・英語はできるけど自分で問題解決ができない、なんて人材は多いけどね。」
当塾で謙虚に学び続ける姿勢を習得し、それを保ちながら、社会に出ても「一隅を照らす」人材に育っていってほしいものです。住友電工の中興の祖である田中良雄氏の言葉です。「一隅を照らすもので私はありたい 私の受け持つ一隅が どんなに小さいみじめな はかないものであっても 悪びれず ひるまず いつもほのかに 照らしていきたい」 注:「一隅を照らす」という言葉は、伝教大師・最澄の言葉が由来です。
その言葉の真の意味とは異なりますが、大ホールでスポットライトを浴び、たった一人なのにその圧倒的な存在感で大観衆を感動させる動画をユーチューブで発見しました。盲目のピアニストの辻井伸行氏が東日本大震災で犠牲になった方々のために自らが作曲した“Elegy for the Victims of the Earthquake and Tsunami of March 11,2011”という曲を涙を流しながら演奏した動画です。当方も動画を見ながら感動の涙が静かに頬伝いに流れ落ちてきました。彼の演奏が多くの人々の心を捉えるのは、単に盲目というハンディキャップがあるにもかかわらず、その卓越した演奏技術の素晴らしさへの称賛に加えて、見えないところで真摯な努力を重ね続けてきたことへの想像が働いているからなのではないでしょうか。あらゆる出来事で感動を呼び起こす背景には、必ずこちら側で垣間見ることのできない“努力”があるということを塾生にも伝えていきたいと心から思った次第です。
奇しくも2017年5月7日の読売新聞に「辻井伸行の世界」と題したCD全集が掲載された全面広告を読みました。その解説にこう書いてありました。「生まれながらの才能は確かにあったかもしれない。だが、辻井伸行の演奏が人々の心を動かし、涙するほどの感動を与えるのは、想像を絶するほどの努力の賜物である。」
*「格差と貧困」問題に言及する際に読んだ参考文献の一部を記載します(著者と出版社を省略)。
「リストラされた100人 貧困の証言」、「ルポ ニッポン絶望工場」、「ルポ 難民化する老人たち」、「ホープレス労働」、「老後親子破産」、「正社員消滅」、「若者を見殺しにする日本経済」、「低欲望社会」、「不平等社会 日本」、「家のない少年たち」、「家のない少女たち」、「定年後」、「医学部残酷物語」、「大不況には本を読む」、「教育格差が日本を没落させる」、「子供の貧困が日本を滅ぼす」、「(株)貧困大国アメリカ」、「希望のニート」(ニートについて優れた洞察と視点で書かれてある良書です)、「下流老人」、「続・下流老人」、「下流大学が日本を滅ぼす」、「女子大生風俗嬢」、「学者は平気でウソをつく」、「中高年ブラック派遣」、「今日からワーキングプアになった」、「今日、会社が倒産した」、「今日、ホームレスになった」、「ビンボーになったらこうなった!」、「東大卒貧困ワーカー」、「貧困の現場」、「這い上がれない未来」、「高学歴ノーリターン」、「サラリーマン絶望の未来」、「ルポ 正社員の若者たち」、「ルポ 正社員になりたい」、「アメリカ型不安社会でいいか」、「こころの格差社会」、「過労自殺」、「偽装請負」、「社内失業」、「階級社会」、「難民世代」、「労働ダンピング」、「正社員が没落する」、「ルポ 貧困大国アメリカ」、「ルポ 貧困大国アメリカⅡ」、「子供の貧困」、「沈みゆく大国 アメリカ」、「女性と子供の貧困」、「若者を見殺しにする国」、「生き方の不平等」、「ニッポン不公正社会」、「若者はなぜ3年で辞めるのか?」、「ワーキングプア」、「軋む社会 教育・仕事・若者の現在」、「子供は親が教育しろ!」、「希望格差社会」、「イヤな仕事は絶対にするな!」、「会社に頼るな信じるな」、「下流予備軍」、「言ってはいけない 残酷すぎる真実」、「本当にヤバイ就職活動」、「正直者ばかりがバカを見る」、「非情の常時リストラ」、「貧困のハローワーク」、「政府は必ず嘘をつく」、「貧困大国ニッポン」、「3年で辞めた若者はどこへ行ったのか」、「韓国の下流社会」←自殺率が実質世界一の韓国社会は、予想以上に壮絶でした😢、日本が天国に見えます、「ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪」、「ブラック企業2 虐待型管理の真相」、「世代の痛み」、「ルポ 絶望の韓国」、「最貧困女子」、「健康格差」、「ブラック職場」
*追記:皆さんは、政府が毎月発表する失業率の数字を信用していますか。直近では、3%と発表されました。しかし、この失業率を欧米に準じた算出法で計算するとなんと実質の失業率は16%です。奇しくもこのパーセンテージは、日本国民の相対的貧困率の16.1%とほぼ同じです。若者に至っては、20%を遥かに超えています。しかも既存正社員の雇用維持のために非正規雇用の増加を政府・官僚・経団連・連合が一丸となって推し進めた結果、学生を除く20代の若者の二人に一人が今や非正規労働者(H.29 年 53.5%)ですから。私たちが如何に政府や官僚やあろうことか労働者の味方と思わされてきた連合にすらにもうまく騙されてきたかがお分かりだと思います。ですからどうしても自分の頭で考える力を身に付けないといいように利用されるばかりです。